ヘブンリー・ブルーW
著者:HOCT2001


 サーフィンの用語で、セットというものは3,4個の波が続けて流れていくことを言う。競技者はセットの中からもっともいい波を選び、演技する。
当然運の要素もかなり高い。スキーのジャンプなんかも一緒だろ。制限時間一杯でできるだけいい風が吹いているときに飛ぶ、ってやつだ。
そして当然ながらフィギュアみたいに点数性だ。難度の高い技やより綺麗な動きを見せたら高得点がつく。
チューブのような波が着たらかなりの演技ができるのだが、日本ではそんな波は来ない。
ハワイやオーストラリアではそれはもういい波がくると聞いているが、海外の大会に出られるほどの身分ではない。
とりあえずは関東地区で目立つ選手になることが今のところの目標だ。

 まぁ、そんなことは今はおいといてだ。今、俺の胸をもんでいる飯田に言った。

「男の乳もんで何が楽しんだ?」
「女の乳がもめねーからしょうがなくだな、不本意ながらお前のをもんでる」
「虚しくねーか?そんなことして」
「いや、本物の乳がもめるようになるまで練習するんだ」
「生産性、死ぬほどないな。というか、そんなことしているから本物、もめないんじゃないの?女子の目がきついぜ」
「そんなことはない!!誰か理解してくれるさ」

 はぁ、朝からこれだもんな。もうちょっとゆっくり来てこそこそと席に着けばよかった…

 キーーンコーーンカーーンコーーン♪

 HR開始のチャイムが鳴った。うちの担任の村本先生は時間にきっちりしていて定刻どおりHRが始まった。
どうも今日のHRは席替えらしい。みんなが席の番号の書かれた紙を箱の中から取っていく。俺の番号は8かぁ、結構後ろの席だな。
堂々とこれからは授業中に眠れそうだぜ。でとなりは、というと、日向さん?神様はどうも俺の味方をしてくれるらしい。
今度の大会に応援しに来てくれる女の子が隣なんて。ここで一気に親密度が上がればいいな。とりあえず挨拶くらいはしないとな。

「これから4ヶ月よろしく、日生さん」
「こっちこそよろしく。ところでさぁ…」
なんか含みのある笑みを浮かべて、
「鏡子が隣だったほうがよかったんじゃないの?」
「バ、バカ、だからそんな関係じゃないって」
「でもサーフィンの大会に誘ったんでしょ?」
「いや、それは成り行きで…」
「そう。じゃ、そういうことにしておいてあげる」

 はぁ、もうどうでもいいや。どうせ小森さんもお礼の気持ちできてくれるわけだし、そこに恋愛感情なんてないよな。あったら嬉しいがな。

 さて、これ以上アレな妄想をしていても時間の無駄だ。とっとと1時間目は寝てしまおう。ぐぅ…

 夢の中で俺は世界レベルのサーファー、吉岡智文、ニックミタ、田中英義、見たいな選手のようなテクニックで波をけっていた。
チューブの中でかなり高いエアリアルをしてみたり、オフセットのなかで華麗にプレーして見せるのは気持ちがいい。
だが、現実は残酷だ。

「泉君、教室移動だよ」

 という日生さんの声で目が覚めた。うぅ、いい夢見ていたのに。

「で、次の時間はどこの教室だったかな?」
「2Cだよ。そこで数学U」
 数学?そんなの四則演算ができれば関係ねー、と思うのだけど。まぁ、一般教養といったところか。
そういえば、どっかの参考書で関数を表すfはfemale(女性)のfだとか書いてあった本があったが、function(関数)のfだよってつっこみたくなったな。
ところで、数学Uと数学Bを分ける必要があるのだろーか?どうでもいいけどな。
ちなみに両方とも頭にはいっていないことはひみつだ。あたりめーだろ、大学部へ進む気さらさらないのだから。さてと、教室移動だから荷物もって行かないとな。
ロッカーから教科書とルーズリーフを持って教室をあとにする。そういえば小森さんは文系志望だからあえないな、ちょっと残念だ。
俺が理系なのは、気象とかをサーフィンに生かすため、せめて天気図くらい読めるようにしておきたいからだ。海に出て波が50センチだったらがっかりするだろ?
おっと、そろそろ教室移動しないとな。

「飯田ぁ、行くぞぉ」
「もうそんな時間か。めんどいなぁ」
「ぼやいていても始まらん。まぁ、これが終わったらパンでも食おうぜ」
「りょーかい」

 さーてと、ロッカーから教科書を引っ張り出し(バインダーを持っていかないことは秘密だ)教室をあとにする。
今日は三角関数だっけ。知り合いから聞いたのだが、sin、cos、は2度微分すると符号が変わり、e(エクスポネンシャル)は微分しても関数が変わらないので便利なのだそうだ。
どうでもいいことを語るあたり、やはり俺の知り合いにはろくなやつがいないらしい。


 休み時間の雑踏を避けながら教室を移動していると、藤倉先生はもう出欠を取り始めていた。

「おおい、泉、飯田、遅刻だぞ」

 やべ、のんびりしすぎたか。これだから時間に厳しい先生は…
どうせ安月給なのだから仕事分だけをやっていればいいものを。ん?授業が始まったみたいだな。

「今日は加法定理と乗法定理について話すぞ。単位円の話は先週したからな。では、教科書の58ページを開くように」

 うーん、まったく興味でないな。次の大会でも演技の技の組み立てでも考えていようか。って、先生鬼のような速さで黒板に数式を書いてるじゃん。
さすがに、教科書にメモを取らないと大変だな。とゆーか、字が汚ねぇ。9なのか1なのかもわからないし、sin,cosがつながって見える。
無理に筆記体で書くなよ。もう、やめやめ。こっそり教室を出て行って早飯食おう。飯田にアイコンタクトを送り教室を出て行く。

 しっかし、鉄筋コンクリートの校舎は牢獄みたいでいやだな。木造建築のほうがぬくもりがあって良い。
このご時世、森林伐採で木造校舎なんか建てたら教育委員会に苦情が殺到することはわかってるんだけどね。

 アレ、あそこを歩いているのは小森さんじゃないか。彼女が授業をサボるなんて。近くへ行って聞いてみよ。

「小森さん、どうしたの?」
「おなかがちょっと痛くて保健室へ行くところだよ」

 なるほど。アレね。

「じゃぁ、早く行って横になってなよ」

 すると、ちょっとお辞儀をすると小走りで去っていった。なんと言うか、やはり小動物みたいな感じでかわいいなぁ。

「飯田、パン買いに行こうぜ」
「よっしゃ、そうするか」

 購買は、A校舎の玄関から出て右20メートルくらいのところにある。ちなみに学食も併設されている。

「俺、メロンパンとクリームパン買うわ」
「いっつもそれかよ、よく飽きないな和樹」
「まぁ、ポリシーってやつでさ」
「ホント、どうでもいいポリシーだな」
「うるせー」
「で、どこで食うよ?」
「さすがに教室はまずいだろ、中庭行こうぜ」
「遠いいじゃん、学食で食おうぜ」
「ま、それでもいいか」

 飯田と飯を食い終わったあと、おじさんの家に帰りボードを削っていた。
すでにメインとなる部分となるウレタンフォームは工場へ出していたので、あとは80番台のサンドペーパーで削るだけだ。
まぁ、それでも重労働なのだが。だがこの微妙な削り具合が本番ではもろに影響を与えるので慎重に削っていく。

 よし、これで大丈夫だろう。明日の練習を終えてからさらなる微調整をしよう。



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